水の大切さ
水の大切さ

                 ひの ゆうさく

 きとうむらには、地元の湧水をパッケージした『木頭村・山の湧水』
という商品があります。その商品について、昨年の暮れに、水を商売に
するのはけしからんというご意見をいただきました。確かに、昨今の水
商品の氾濫はいかがなものかとも思います。ダムで溜めて長いパイプで
遠くまで運ぶ水道が当たり前の時代、その巨額なインフラ整備によって
手にした水を飲まず、パックに入った水を買うなどもってのほかだとい
うことでしょう。
 水の豊かな日本では、古くから井戸や湧水を生活水として使っていま
したが、近代化の中で、地下水は産業のために使われ、井戸が枯れる現
象が各地で発生しています。また、地下水のくみ上げによる取水は、浄
化途上の地下水の汚染をまねくだけでなく、地下水圧の低下による生態
系への環境的悪影響も懸念されます。しかし、おいしい水が飲みたいと
いう欲求は高く、浄水器やペットボトルが当たり前となった今、けしか
らんと言うだけでは何も解決しません。大手メーカーの水ビジネスがエ
スカレートする中、各地で地下水がくみ上げられていることで起こる環
境的影響を考えると、その取水方法にこそ声を上げることが重要だと思
っています。
 きとうむらの『山の湧水』は、ちまたの水商品に対する対案として企
画したものであり、水商売のためではないということをぜひ皆さんに知
っていただきたいのです。ダムを止め、美しい水を守ってきた木頭村だ
けに、環境にできるだけ負担をかけない商品開発を目指すことが、私た
ちの使命だと考えています。そして、この湧水も例外ではありません。
生態系に影響の少ない場所(岩肌を伝って川に流れ込む湧水地)から、
ポンプなど使うことなく自然落下で、約2キロのパイプで工場まで運び
パッケージしています。もちろんパッケージも、ビンやペットボトルに
比べ環境負荷の少ない新素材紙パックで、牛乳パックと同じようにリサ
イクルでき、紙自体も資源循環を考えた植林材を使用したものです。私
たちはこの湧水を単なる商品ではなく、ダムや長いパイプの代わりに、
それを求めておられる方のもとへ運ぶ「もうひとつの水道事業」だと考
えています。だから、原水地となる森林を保護し、取水方法やパッケー
ジにこだわることこそが、この商品の本質だと思っています。このよう
に、きとうむらでは環境との共生をコンセプトに、各事業に取り組んで
いることをご理解いただきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願
いいたします。