奥木頭物語(その六)

   「動物たちと罠 」     山村好一

 (前回より続き)
 今度は四つ足でやって来る兎や狸。兎も草食動物で
よく喰らう。焼き畑の垣根の隙間をくぐりぬけるの
で、罠をかけても掛けやすいし掛かりよい。だがそれ
は人間の作った垣があってのことで、平坦な山や野原
では、そう簡単には掛からない。兎は逃げる途中、一
旦止まって後を振り向き、また走り出す。こんな習
性があるようだ。童話に出てくる「ウサギとかめ」の
かけっこで、兎が一眠りする場面が出てくるが、案外
このような習性を表現しているのかも知れない。動
物の中で狸は走りは遅い方だが、敵に出会ったとた
ん、一目散に走り出すが、物陰があればすぐそこへ
身を隠し、再度逃げるチャンスを伺う。体力と息切
れの限界を感じているのだろう。その点、テンという
動物は身が軽い。身が軽いと言えばリスもいる。リス
は木の実を主食にしているためか、雑木林の中に多
く棲む。林の中を歩いていた時、突然リスに出くわし
た。目の前の木に飛びついたと思ったら、その木の裏
側へまわり、一目散に上に駆け上がり、アッというま
に気のてっぺんから隣の枝へと飛び移っていく。一気
に数メートルも飛ぶ。リスの身体の毛としっぽは羽の
役割を果たし、その身のこなしようはまさに天下一
品である。
 手に負えないのは、猪である。蛇や蛙にミミズ、かに
なども大好物で、時には稗や粟なども喰らうし、茎
などは寝床の敷き藁にされる。クズかずらの根っこも
大好物で、見つけ次第掘り返されるので、野山は荒
らされ放題だ。捕獲しようとしても罠には掛かりに
くく、やはり猟師に頼むのが近道のようだ。
 一応動物の捕獲に使う「はね木」や針金は、相手の
動物の体格にあわせ、太さや長さも決めるし、罠の大
きさや高さも、自ら決まってくる。それにはやはり長
年やって来た経験と感がものを言う世界だろう。
 しかし最近のサルの異常繁殖にはほとほと困ったも
のである。ビワや柿、栗やグルミ、竹の子やしいたけ
などのほか、畑の作物の被害も次第に増えていく今
日この頃である。