奥木頭物語(その五)

   「動物たちと罠 」         山村好一

(前号よりつづき) 
  アホナ奴だと思うのは鳩である。畑に直接舞い降りてくるが、人
間がいてびっくりして飛び上がり、飛ぶ方向を定めず「ああ恐かっ
た」とどこへでも飛んでいく。そのくせ30メートルくらいに人間が
いても平気で舞い降りたりもする。鳩の好物は大豆などの豆類だ
が、熟した果物や菜っ葉なども平気でつつく。鳩を寄せ付けないよ
うにするために、好一も苦労を重ねた。一番よいと聴いたのは、は
がきの裏表に墨で2重丸を書き、白糸で吊るしておくと、しばらく
は寄り付かない。どうやら大きな目玉のように動くものは大嫌い
のようだ。しかしすぐ慣れてくるので長続きはしない。また作物の
上に白糸を張り巡らすと、頭にさわるのが一番嫌なのか、しばら
くは寄り付かないが、余り期待できない。
 ある時、畑に折角まいた大豆が、鳩たちによってものの見事に食
い荒らされてしまった。それもただの一回や二回ではない。彼ら早
起きで食欲も旺盛である。「畜生」好一の頭脳は怒り沸騰し充血
している。好一は大豆を水に浸し、柔らかになった豆を糸で結んで
夕方畑に蒔き、糸だけは見えないように土の中に隠した。糸の端
は打ち込んだ杭にしっかりと結び付けてある。あくる朝行って見る
と、五,六羽の鳩たちがテンテコ舞い。飲み込んだ糸を取ろうと片
足でクチバシの付け根をかいているものもおれば、その豆を今飲み
こんでいる最中でなんで長い豆だろうと思っているかも知れない。
好一の突然の出現に慌てて飛び立ったものの、糸に引っ張られて途
中で半回転し、墜落しそうになったり、喰った豆を吐き出そうとす
るものの、まさにてんやわんやの大騒ぎで、その場は完全に修羅場
となった。
 慌てて逃げようとする一羽を捕獲し、しつけのために一晩おいて
逃がしてやった。しばらくは姿を見せなかったが、性懲りもなく彼
らは又もやって来た。以後、何べんでも来る。しかし、二度と糸の付
いた豆だけは絶対喰わなかった。別の鳩のグループも来ているはず
だが、仲間同士連絡をとっているのだろうか。好一はこうした疑問
がさらに深まった。
 今度は四つ足でやって来る兎や狸。兎も草食動物でよく喰らう。・
・・
 (次号に続く)