奥木頭物語(その五)

   「動物たちと罠 」         山村好一

焼き畑に蒔いた稗や粟、野菜などを狙っていろんな動物達がやってくる。それは
深くて広い原生林の中でひときわ目立つものは、やはりこの焼き畑だろう。動物
たちにとっては、それは食べ物が豊富にあることはもちろんだが、何ヶ月にも及
ぶ広葉樹の伐採によるものすごい雑音に悩まされ、山焼きと言う大火による黒煙
に襲われ、大勢の人間どもの乱入によって、その叫び声が山々にこだまし、恐怖
のどん底に落とされた動物たちの世界、恨みは相当あるに違いない。「何をやっ
ているんだ、大自然を破壊して」動物達の怒りの声とあわせて、悲鳴が聞こえて
くるようだ。しかし、好一はそれに反論する。「俺たち人間も喰うや喰わずで、
働かなければならない、まず食物の確保が最優先だ」と、それを多くの動物たち
がやってきて「食い荒らすだけじゃないか、断じて許せん」。19歳になったば
かりの好一青年は、動物たちに作物を荒らされないようにすることをまず第一に
考え、次に捕獲することを第二とし、それには動物達の習性を知ることが大事と
思って早速観察を始めた。57年前の話である。以下、好一の記憶である。
カラスはもちろん、雉や山鳥、鳩などの鳥たちの他に、猪や兎、狸やテン、トマ
コにムササビなどと数も多い。カラスは用心深く、上空から焼き畑を見下ろし、
危険なものが潜んでいないか確認し、なおかつ近くの立木の枝に来てとまり、ウ
ロウロと周囲を見渡し、そのあと畑におりてくる。狙いは蛇やトカゲ、蛙なのだ
が、作物では芋やトウモロコシに瓜、かぼちゃ、豆類など、実に多彩である。

カラスを追い払うには、山奥では案山子をいくつも立てれば一時は効果があるも
のの、ときどき場所を変え、案山子の人相も変えねば効果はうすい。カラスを絶
対寄せ付けないようにするには、一羽のカラスを捕獲し、その羽などを雨ざらし
にしておけば決して来なくなる。

 雉や山鳥も直接畑にはおりてこない。一旦外側の藪の中におりた後、
周囲を見
渡し身に危険が及ばないかを見極めながら、静かに入ってくる。しかし、同じ鳥
でも、動作は多少違うようだ。雉は早足で物陰に隠れながら歩いてくるが、時々
首を伸ばして案山子の方を見つめる。しかし山鳥は身を低くして、案山子に見ら
れないようにして歩いてくるようだ。案外用心深い。
アホナ奴だと思うのは鳩である。