木頭の創作おはなし  

       月を拾ったおばあさん    大城 岩男          田村 好


まあるいお月さまは、石段のような雲の上をコロコロコロコロと、長
い長い時間をかけて転がって行きました。お月さまは転がっているう
ちに、少しではありますがデコボコになっていました。雲が切れたと
ころの下には、杉の皮で葺いた家がありまして、その上にぽとりと落
ちました。屋根を転がって、茗荷畑に落ちた時はもう夕暮れでした。
柿のズクを採っていたおばあさんは、お月さまが転がってきたのを気
づかずに屋根を降りようと下を見ると、黄色い丸いものが光っている
のを見つけて恐る恐るそれを拾いました。お月さまは少し割れており
そこから何ともいえない香りがしておりました。それをじいさんに見
せると
「それは月ではないか」と言いました。
まさかと空を見てみるといつもは二つある月が一つになっていました
「ほんとにそうかもしれないね、じいさんどうするね」
「まかせてくれるかね」
じいさんは外に出て、裏のお墓のある空に向かって放り上げました。
すると、しばらくして空が少し明るくなるのを感じました。でも月は
やっぱり一つでした。
「いい香りの月だったね、帰ったかな」と二人は家の中に入って行き
ました。
 あくる日のことです。じいさんはいつものように早起きをして、外
に出てぐーんと手を伸ばして空を見上げると、夕べ放り上げたお墓の
あたりに大きな木が生えて、そこにお月さまのような黄色い実がいっ
ぱいなっていました。
「あっ、ばあさんばあさん」
「なんだね朝早くから大きな声・・あれまっ」
二人はあわてて、お墓の所へ行ってみると、間違いなく大きな木が一
晩で生えていました。
「お月さまの贈りものかね」
あの甘酸っぱい香りを思い出したばあさんは一個を採って帰り手を合
わせてから,半分にしてみました。得も言われぬ甘い香りがあたりを
包み、二人は幸せな気分になっておりました。その木を大事に大事に
して、二人は毎年その香りを喜び、その汁で鮨を握ったりして仲良く
暮らしておりましたが、やがてじいさんが、百一歳までを生きたばあ
さんも亡くなり、杉皮だった屋根はトタンに替わり、瓦葺きになった
今もその木はそのまま残って、小さな村を見守っているのです。月が
一つのわけか。